美竹公園強制封鎖に対する抗議行動に参加しました

美竹公園強制封鎖

 

2022年10月25日(火)早朝6時半頃、渋谷区が区立美竹公園を強制封鎖しました。

 

www.city.shibuya.tokyo.jp

 

同公園では炊き出し活動が24年間続けられており、公園内で寝泊まりする野宿者も数多くいました。しかし、渋谷区は公園内にいた野宿者に一切の予告も、事前の声かけもすることなく突如として封鎖を強行し、公園内のトイレや水道も使用できなくしました。

 

区の行動が異様なまでに敵対的、暴力的だったこともあり、封鎖直後から区への抗議が殺到し、この問題が瞬く間に広まりました。抗議の甲斐もあって現在はトイレや水道への水の供給が再開され、トイレ清掃も復活したようです。しかし、業者によるゴミの回収は再開されておらず、公園周囲も未だ仮囲いされたままで、野宿者の生活は依然として脅かされています。

 

このような動向のなか、公園の強制封鎖に対する抗議活動の呼びかけがなされたため、これに参加することにしました。

 

 

行動当日、参加者は次の内容を区に抗議することで合意しました(傍線部、強調筆者)。

 

美竹公園の強制封鎖・野宿者追い出しに抗議します
  1. 長谷部健区長は強制封鎖、人権侵害について公式に謝罪してください。公園利用禁止の告示(渋谷区告示第190号)は、長谷部区長名で25日当日の朝に出されています。長谷部区長には、今回の暴挙に直接の責任があります
  2. 福祉政策を道具にした野宿者追い出しはやめてください。強制封鎖で閉じ込めた状態での「案内」は脅迫・強要です。
  3. 生活の拠点の出入りを封鎖し、生きる場所をなくすことは、今後二度と行わないでください。
  4. 炊き出し活動の継続をおびやかす妨害行為はやめてください。

 

抗議行動① 無視を決め込む公園課

渋谷区役所

渋谷区役所

 

当日はまず公園課に抗議をしに行きました。課長は出てきませんでしたが代わりに主査が対応し、最終的に抗議文を渡して終了しました。

 

実は美竹公園は2012年にも強制封鎖されたことがありました。その時の区の担当者も同フロアにいましたが、抗議行動参加者を一瞥することもありませんでした。フロア内に抗議の声が響き渡っているにもかかわらず、他の職員も無視を決め込む状況で異様な空気が流れていました。

 

抗議行動② まちづくり三課:行政による挑発と盗撮

 

次にまちづくり三課に行きましたが、当日の行動でここが一番揉めました。

 

まちづくり三課は美竹公園を含む渋谷区一丁目共同開発事業を担当しています。この事業では「創造文化教育施設」や「多様な都心居住を推進する施設」など民間複合施設の建設が予定されているそうですが、野宿者排除が前提とされているジェントリフィケーション政策*1であり、「多様性」も何もあったものではありません。

 

窓口に行くと、課長は打ち合わせのため不在と言われました。緊急のため連絡を取るように要求していたところ、事業と関わりのない、まちづくり二課の職員が抗議行動参加者に挑発を入れ始めたのです。

 

当然、二課の職員は公園封鎖や共同開発事業について何も知らないため「わからない」「答えられない」と繰り返していましたが、抗議参加者が職員に引き下がるよう言ってもその場を離れず、何度も話し合いを妨害しました。

 

さらに、フロア奥のブースにいた人物がスマホ抗議参加者を盗撮したため、すぐに抗議しその人物に出てくるよう要求しました。盗撮した人物はブースの衝立に隠れて出てこず、窓口の職員も盗撮の問題に取り組もうとしませんでした。

 

やむを得ず、一部の行動参加者が窓口内に入りブースまで行こうとしましたが、なんとそこで打ち合わせ中のはずだったまちづくり三課課長が登場し「廊下に出てください!」と大声で連呼して抗議者を制止しようとしたのです。法律上、公務員は肖像権がないため職員を撮影しても何も問題はありませんが、渋谷区は職員への撮影を禁止するだけでなく市民への盗撮を平然と行う違法行政窓口のようです。

 

結局、盗撮者は最後まで表に出てくることなく、三課課長も抗議文を受け取ったことで盗撮の件をうやむやにしました。今後も渋谷区に対する抗議は続くと思われますが、公園強制封鎖だけでなく盗撮の件も抗議していきたいです。

 

ところで、いずれの窓口も抗議について事前に「アポを取る」よう言ってきました。しかし、そもそも区による公園封鎖自体が「アポを取る」ことなく行われたものです。行政の都合を優先した恣意的な運用で行われる人権侵害を許すことはできません。

 

抗議行動③ 区長室フロア

 

先述の通り、今回の美竹公園強制封鎖は渋谷区長に直接の責任があります。そのため、区長に直接抗議文を渡そうとしましたが、区長室のある「企画・総務」フロア前に警備員が3名、後に追加で投入された2名を含む5名の警備員が窓口への立ち入りを封鎖していました。区長は出てきませんでしたので、職員に抗議文を渡し区長に受領するよう求めました。

 

ここでも警備員が撮影をする参加者を制止しようとしてきましたが、抗議参加者が中に入れないことをいいことにフロア内の職員はこちら側を撮影し記録しようとしていました。また、エレベーター近くに私服警察がおり、抗議行動に対する警戒を強めていたようです。

 

区長宛の抗議文を渡した後、渋谷区役所前で街宣活動を行いました。ビラまきをしたところチラシを受け取ってくれる人も多く、公園封鎖に対する社会的な関心が広がっていることを確認しました。

「渋谷区がまたもやだまし討ち!! 出入口・トイレ封鎖 水道止め 野宿者排除を許さない」と書かれたプラカード

「渋谷区がまたもやだまし討ち!! 出入口・トイレ封鎖 水道止め 野宿者排除を許さない」と書かれたプラカード

渋谷区役所前抗議行動。区役所前の道沿い両端にプラカードを掲げて抗議、街宣、ビラ配りを行う

渋谷区役所前抗議行動

 

抗議行動④ 福祉事務所:「ハウジングファースト」が追い出しの口実に

 

最後に、区役所から少し離れた場所にある福祉事務所へ移動し抗議しました。25日当日朝7時半頃には同事務所の職員も現場にいたらしく、渋谷区の福祉事務所は今回の強制封鎖の共犯者といえます。

 

渋谷区は公園封鎖に対し、次のような野宿者、炊き出し活動参加者有志に敵対的な文書を公表しています。この文書で区は公園内にいた人たちに「丁寧にお声かけをさせて」いただいたとしていますが、当日公園内に居合わせ今回の抗議行動に参加した人は「丁寧な声かけ」など何もなく強制的に追い出されたと証言しています。

 

www.city.shibuya.tokyo.jp

 

公園封鎖に関わる福祉事務所の問題のポイントは生活保護」「ハウジングファースト」を追い出しのための手段にしている点です。福祉事務所にとって野宿者は「福祉を受けるよう声かけをしているにもかかわらず公共スペースへの起居を続ける不法占拠者」という存在として認識されているようです。今回対応した職員は野宿者の追い出しについて、公園にいた人たちの「意思を尊重」したと「今でも思っている」と言っていましたが、圧倒的な暴力を背景にした「意思の尊重」は絵空事と言わざるを得ないでしょう。

 

抗議に参加した人からは「あなた(福祉事務所)がトイレ封鎖を止めることができたんじゃないですか」という声も聞かれました。野宿者の追い出しだけでなく公園のトイレや水道までも封鎖したのですから、公園を生活の拠点にしている人々に物理的・身体的な苦痛を区や福祉事務所は与えたのです。そのような公共空間の占拠を、福祉事務所は「福祉を受けない野宿者の自己責任」として正当化しています。

 

なお、今回の行動に関わった「ねる会議」がこの日、声明を出しました。公園再開発の問題に関心のある方に是非読んで欲しいです。

minnanokouenn.blogspot.com

 

ジェントリフィケーションは家父長制である

 

行政による都市空間の支配的な占拠は社会的なマイノリティ属性を持つ人々に深刻な被害を与えます。低所得の若年シングルマザー、移民/有色人種の母子世帯、障害やメンタルヘルスの問題を抱える単身女性、DVサヴァイヴァーセックスワーカー、LGBTQIA+といった人々は特に影響を受ける主体となるでしょう*2。村上潔は、これらの人々が交渉、抗議して問題を解決するためのサポートを行うフェミニスト・グループのアプローチを研究し、ロンドンの草の根フェミニスト・グループ<ロンドン・ラティンクス[The London Latinxs]>の提言を紹介しています*3。このグループはアピールのなかで次のような指摘を行なっています。

 


  • ジェントリフィケーションは人種差別である。
  • ジェントリフィケーションは家父長制的である。
  • ジェントリフィケーションは階級差別である。
  • ジェントリフィケーションは反コミュニティ的である。

 

ジェントリフィケーションをこのように捉えることで、①家父長制を基盤とした社会構造の暴力性・差別性を、他の構造的差別とあわせ総合的に捉え、それに対峙する運動体を構築することができます。また、②ラディカルな直接行動に参加し、自らの状況を知らしめ、連帯の輪を拡張し、③ヴァルネラブルな(=傷つきやすい)身体・精神を相互にケアしつつ、生活の条件を獲得することも可能になります*4

 

村上はフェミニスト的アプローチを用いた反ジェントリフィケーション運動について、④物理的・経済的な面での解決にとどまらず、必要十分な再生産の条件を獲得することを重視し、⑤運動体やメンバー個人、コミュニティの自律性を重視して運動を継続していると評価しています。今回の抗議行動も、特定の上部組織を持たない人々が自律的、組織的に動いて行なったものです。つまり、美竹公園強制封鎖への抗議は、BLMに連なるような水平的な反家父長制運動でもあるのです。そしてこれを持続的なものにしていくためには、互恵的なケアとわたしたち自身の再生産が不可欠です。

 

BLMのネットワークを通して、保釈システムの改正の実現化に向かって全力を尽くす。これはおそらく私個人が最も重要視している課題で、即ち[法律制度に巻き込まれる]人々の"人間性"を尊重する新しい運動文化を創立し、それを実行に移そうと励む。そしてその活動は、差別を受ける人々のために、そして差別を受けている人々と一緒になって行われるのだ。*5

*1:ジェントリフィケーションとは、資本が都市を支配しようとする時に用いる戦略のひとつであり、「私たち都市に生きる者がともに生活するなかでゆっくり作り上げてきた風景や雰囲気、空間のあり方や利用の仕方、そこから生まれるあらゆる記憶を、たくみに利用しながら剥奪」するものである。詳細はリンクを参照。

antigentrification.info

*2:村上潔「ジェントリフィケーションに対抗するフェミニスト・アクティヴィズム ロンドンにおける多様な実践から」『福音と世界』2021年8月号、新教出版社

*3:

antigentrification.info

*4:村上前掲論文。①〜⑤は村上の整理

*5:パトリース・カーン=カラーズ+アーシャ・バンデリ、ワゴナー理恵子訳『ブラック・ライヴズ・マター回想録 テロリストと呼ばれて』青土社、p302.