TGJPのハラスメントに抗議します

元々この記事は東京トランスマーチの参加報告として書こうとしていたが、趣旨を変えざるをえなくなった。

 

先日行われたトランスマーチに知人とともに参加した。これまで参加したデモでは一番長く時間をかけて歩いたと思う。10km以上の距離を行進したのでさすがに足が疲れてしまった。

TOKYO TRANS MARCH 2022 パンフレット

TOKYO TRANS MARCH 2022 パンフレット

主催者発表では1000人以上の参加があったといい、実際、それほどの人が集まっていたと思う。そのため、行進の中にいるとかなりの高揚感があり、道路脇から行進を応援する人や、自ら側道に出て参加者を応援する人もいた。

行進中の写真。バスタ新宿前を通る甲州街道の新宿駅南口側1車線を占拠し4~6列になって行進中。奥に新宿ルミネ1や新宿駅(南口)がみえる。

新宿二丁目付近を通過中。トランスマーチのパンフレットやプラカード、ノンバイナリーフラッグを掲げて行進する人がみえる

東京トランスマーチの様子

ビルの中から窓越しにエールを送る人々

行進参加者がデモにエールを送る。この人は手に周司あきら『トランスジェンダー男性学』や高島鈴『布団の中から蜂起せよ』、ショーン・フェイ『トランスジェンダー問題』を掲げている。

デモ行進にエールを送る人々

 

今年のデモも無事成功してよかったね、で終われば何よりだったのだが、そうならなかったのが残念である。

 

周知の通り、デモの運営に関わったボランティアから主催者側のハラスメントの告発があった。それから2週間ほどして運営サイドからの’調査’内容が発表されたのだが、この内容がたいへんひどかった。臆面もなく文書が公開されているのでリンクは貼らない。みたい人は各自で確認してほしい*1

 

この文書では、運営側が「ハラスメントの定義」なるものを持ち出してハラスメントはなかったと述べている。ところで、「トランスの定義」をトランスジェンダーの当人に聞くという嫌がらせがトランス差別をする人間の間で確立している。そんなくだらない嫌がらせの意味について親切に解説する気はない。しかしながら、一つだけ言えることは、嫌がらせやハラスメントが起こった際に「定義」を持ち出すことはその訴えを無効化する意図の下でしばしば行われる、ということである。ご丁寧に厚労省という国の機関の基準を借用して訴えを無効化しようとする振る舞いは、トランスの定義を聞く嫌がらせを続けるセクシストのそれと何が違うのであろうか。

 

そもそも、今回のデモは開催前から不安要素が大きかった。デモ開催前に運営は警察が人数制限の要求を突きつけてきたので人数把握のために参加申し込みをしてほしいと発表していた。今ここで警察と争ってしまうとデモ開催自体が危ぶまれるからできる限りの交渉をやっているとも。

 

 

 

運動なめとんのか?

 

 

 

法的根拠もないことは運営もわかっているのに、そこに動揺してすぐに妥協しようとするのは違うと思う。以前のブログで妥協を許さない左翼の問題について書いたが、今回のそれは明らかに度を越している。そんなゴミみたいな要求を突っぱねられないことがもうダメだし、それでデモが開催できなくなってもいいじゃないか。デモ開催中止に対する抗議の集会でもやればオルグも成功しただろう。差別に反対することよりデモ開催自体が目的になっていては本末転倒だ。反貧困運動の旗手だった湯浅誠の変節を想い出す。

 

何より許せないのは、主催者が参加者のことを信じていないということである。500人集まるか、750人集まるかというところで右往左往して、蓋を開けてみれば1000人以上集まったと。とんだ茶番劇だ。なぜ仲間のことを信じられないのか。仮に失敗したとしても、それはすべて警察が悪いのだから何も恥じることはない。そもそも警察とのやりとりをなぜ一人でやっているのか。そんな大事な交渉を一人でやるから思考も保守的になるのだ。国家権力との交渉が孤立している事態そのものが仲間を信じていないという何よりの証明ではないのだろうか。

 

 

いずれにしても運営の開き直った態度は許されるものではないし、告発を行なったボランティアの方々の心境は察するにあまりある。とはいえ、ボランティアの方たちに連帯する”仲間”もいる。デモの主催に関わった「ありえないデモ」もそうだ。

 

 

ありえないデモも運営から尻尾切りのような扱いをされて不憫だと思う。しかしながら、そんなぞんざいな扱いさえものともしない連帯の萌芽がこの運動にはある。先日わたしは12月2日のありえないデモに参加した。寒いなかの開催ではあったが、決して少なくない人が集会に来ていた。わたしは体裁や国家権力の機嫌を気にするような運動より、地道にラディカルな活動を続ける運動を好む。

 

ハラスメントの問題に対しては抗議を続けつつ、わたしは前を向きたい。ハラスメントに関する取り組みについて素晴らしいガイドラインが公開されたので紹介しておきたい。

 

 

 

 

 

ちなみに、トランスマーチ参加者にはフロート別にリストバンドが配られていた。筆者はありえないデモの隊列に加わったので黄色のリストバンドをもらった。日本においてイエローリストバンドは障害のある人びとの社会参加を推進する運動のシンボルでもある。内閣府は12月3日の国際障がい者デーから9日を障害者週間と定めている。すべての人に、ハラスメントや差別のない社会を。

 

トランスマーチ参加者のリストバンド。輪っかにした黄色い紙を腕に巻き付けている。

トランスマーチ参加者のリストバンド

 

*1:文書の公開後、Twitterで相互フォローだった方がアカウントを消されてしまった。筆者は今後ある書籍を執筆、出版したいと考えており、その方に直接献本できればと考えていたのだが連絡先を聞くこともできなかった。残念である。

 

また、あの文書が公開された後にTGJPに支持を表明する人が多かったのも残念だった。プレカリアートユニオンの稲葉さんも支持されていた。完全に余談なのだが、稲葉さんが支持を表明した背景は理解できる。DMUの件があったからだ。今回の件はDMUとは全く性質の異なるものだったのだが、あの事件を経由すると運営の支持にまわる気持ちはわかってしまう。しかしながら、やはりその見極めを誤ってしまったことは残念であり、遅くなってもいいから撤回する日が来てくれることを願うばかりである。