ある歴史家再考のイベントに関して

先日こちらのイベントに参加しました。

https://culture-class-connection-ks22.peatix.com/view

 

参加してみて思いましたが、典型的なmanelでした。また、ジェンダーに関する議論もあまり展開されていませんでした。

 

パネリストのGordon氏やSavage氏は、トムソンにはジェンダーの観点がなく、また、それぞれ自身の初期の研究にもなかったと反省的に述べていました。一方で、日本の研究者、パネリストからは、ジェンダーに関する指摘は全くありませんでした。女性がいない場で「ジェンダーの観点がなかった」と反省しても、それはどこまで意味があることなのか、議論の余地があると思います。しかし、そうした反省の弁もない日本の男性研究者については、明らかに問題があると思います。

 

講演内容についてですが、EPトムソンが反核運動に関わっていたという話は知りませんでした。彼には平和運動に関する著作もあり、少ないうえに現在は絶版だと思われるものの、いくつかの著作が日本語に訳されているというのも初めて知りました。また、歴史家としてのホブズボームとの差異等の議論が展開され、その指摘自体は確かに重要かつ興味深い話だと思いました。

 

ただ、「再考」と題する割には新しい観点がないことが気になりました。「再考」と銘打つからには当時の情勢や価値観を踏まえて論じるのみならず、現代的意義も併せて論じる必要があると思います。しかし、社会的特権を享受するマジョリティだけのお喋りで終わるのをみると、重要な歴史家でありながら日本であまり受容されなかった理由が何となく理解できます。

 

「性•人種•階級」というテーマはEPが晩年に生きた時代でもマルクス主義が取り組んでいたはずです。それなのに2021年にもなってそのテーマに触れないなら、再考ではなくこれまでの議論の「再認識」程度にしかならないでしょう。マイノリティに対する視点やマジョリティの特権、manelを開催してもなんとも思わない研究者が多いという現状を、日本の歴史家は重く受け止めるべきではないでしょうか。