人気バンドSHISHAMOのドラマーの吉川美冴貴さんが、交際していた女性とパートナーシップの宣誓を行ったことを発表した。
ご報告です🌻(吉川) pic.twitter.com/TAH4X7OuVx
— SHISHAMO (@SHISHAMO_BAND) 2024年7月14日
SHISHAMOを聴いていたのはもう随分昔のことだ。それも有名な2,3曲しか知らないにわかファンなのだが、報告を受けて昔の自分のことを思い出し、感傷的な気持ちになった。
SHISHAMOの代表曲に「僕に彼女ができたんだ」という曲がある。
自分に彼女ができたのが嬉しくて周りに言いふらしたいけど、二人だけの秘密だから自慢したくてもできない。そんな恋心を歌った曲だ。
私(わたし)にはこの曲にまつわる、あまり嬉しくない思い出がある。
たびたびブログで紹介しているが、以前、ある社会運動組織に関わっていたことがある。その組織では個人の生活よりも社会運動を優先するべきだという価値観が支配的だった。ただ、運動に参加して間もない人たちと親睦を深めるという名目でカラオケに行っていた時期があり、その時間は自分にとって数少ない息抜きの時間でもあった。
しかし、本来は息抜きになるはずが、実際には人格を否定されるなどの辱めを受けることも少なくなかった。例えば、アニメを視聴する人間を毛嫌いするメンバーに、当時流行していたアニメの主題歌を無理やり歌わされてそれを嗤われるということがあった。最近、職場の人たちと久しぶりにカラオケに行く機会があったのだが、誰がどんな曲を歌ってもそれをバカにするといったことがなかったので、自分が受けた経験は特殊だったのだなとしみじみ感じた。
さて、カラオケの場で先の曲を歌った時も例にもれず不興をかってしまった。彼らからすれば、この曲は(社会のことに関心を抱かず)恋愛にうつつを抜かす男の歌だという意味で「キツい」曲なのだそうだ。そもそも自分に彼女ができたことを喜ぶような男は幼稚であり、少なくとも社会運動に関わる人間が抱いていい心性ではないと。歌った時の場の空気が微妙だったので自分が恥ずかしくなり、以後、自分の記憶からも曲の存在を消してしまっていた。
それから数年を経て今回、吉川さんの発表に接したことでこの曲のことを思い出した。そして、彼女ができたことが嬉しいのに、同性愛者であることをカミングアウトできないが故にもどかしい思いを抱く女性の内面を歌った曲であるという解釈が可能なことにも気づいたのだ。別の解釈に気がつかなかったのは悔しいが、あの時の私(わたし)では無理だっただろうと思う。この曲を歌うことすら嘲笑の的にされ、歌の存在を記憶から消し去り抑圧していた身としては、あの時の自分を肯定していいんだという嬉しさがあり、涙がこぼれてしまった。
男と女の情事以外を想定することができないような、ホモソーシャルの湯船に浸かる健常者のシスヘテロ左翼男性どもには、この曲を理解することなど所詮不可能だったのだ。「キツい」曲だと嗤ってくれたことでお前らはやっぱりクズなんだと安心することができた。クズでいてくれてありがとう!
「そしていつか、結婚できる日が来たらもっともっと嬉しいです!」という吉川さんたちのパートナーシップの宣誓を素直に喜んでいいのかどうかはわからない。パートナーシップは結婚と同等ではないのはその通りだし、そもそも「結婚制度は廃止するべきだ」という左翼から宣誓を言祝ぐことすらお叱りを受けそうだ。それでも、本人たちがカミングアウトして伝えてくれた吉報をまずは受け止めたいと思う。2人のためにも、わたしのためにも。
あの曲を好きだといったことで自分の尊厳を奪われるようなこともあったけれど、今回のことでかつての自分の尊厳を少しは取り返せたかもしれない、そんな気持ちでいる。おめでとう、そして、ありがとう。